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※性描写を含みますので、18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。
誰もいないだだっ広い部屋に、扇風機の回る音だけが響いている。それは風に吹かれて舞い上がる書類の音までも覆い隠してしまう、ひどく耳障りで甲高い音だった。
(…しょうもねえなあ、錆びてんのかよ)
三上は再び響いてきたその音に、息を詰めたまま眉を寄せた。
たしか今年最初の真夏日を記録した先々週の末からずっと、クーラーは故障したままだった。私立の名門校たるものが、予算不足もないだろう。まあ、この部屋にクーラーがなくたって、別にどうでもいいんだけど。ていうかむしろザマミロ?
(…でも、今ないのはありえねえ)
上体を支える腕をダラダラと汗が流れて、その気持ち悪さに閉口する。信じらんねえ、まるでサウナだ。
開け放たれた窓から差し込む直射日光が、中途半端に引かれたカーテンの隙間を縫うようにして床に落ちている。けれど意識を集中させて耳を澄ませば、蝉の大合唱の向こう側、体育館の方から微かにざわめきが聞こえてくるような気がした。
時刻は朝の8時半。体育館では、全校集会が始まる時刻だった。
視線だけを動かして壁の時計を見た時、まるでそれを待っていたかのようなタイミングで長針が動いて、反射的に肩を揺らした。どこか朦朧としていた思考が、現実に引き戻される感覚がする。背を預けたコピー機が、重心を動かしたせいでガタン、と大きな音をたてて揺れた。そういえば、と思う。ただでさえ暑い部屋で、なんだって敢えてこんなさらに熱いところにいるんだ?
「…あと、30分くらいだね」
まるで思考を読んだようなタイミングで声がして、吸いかけていた息を思わずごくりと飲み込んだ。飲み込みきれなかった息が喉にひっかかって、小さく咳き込む。時計を見るために立ち上がっていた藤代が、その音につられるようにしてゆっくりと体ごと向き直る気配がした。
視線が落ちてくる。
いや、多分そうなのだろうと、板敷きの床を凝視しながら三上は思った。そして思ったまま、無意識に身を縮めた。どこか、思考がぼやけている。インクに水が垂れたときのような緩慢さで、じわり、と何かが迫ってくるような感覚がする。恐怖のような、絶望のような、そして期待のような。
けれど何が出来るというわけでもなかった。上がる息を抑えることにただ集中しながら、呼吸を繰り返す。吸って、吐いて、吸って、吐いて。
無駄なことは、わかっている。
何でもないふりを装おうとしたって、どうせ端からバレているのだから。藤代は無言で、けれどその視線がひどく粘着質に絡みついている。肌蹴たシャツと、チャックだけ下ろされたズボンと、そして……、
「……っ」
瞬間藤代の表情を想像してしまって、身体の熱という熱が下半身に集中した。一瞬目の前が真っ白になる。
たまらずぎゅっと目をつぶった。藤代が見ている。違う、そうじゃない。早く、ここを立たなければ。
先輩、と藤代がしばらくの間を開けて声を発した。
「早くやっちゃおう」
「…藤代っ、…っ!」
ぎょっ、とした。
直接的な言葉と、そして何の前触れもなく伸びてきた手に。
条件反射で上げた声が、必要以上にうわずっていて一瞬、泣きたくなった。しゃがみ込んだ藤代が、覗き込んだ目で楽しそうに笑った。
「いいですよ、俺は。別に間に合わなくても。集会終わって先生達みんな帰ってきても。見られて困る格好をしてるのは俺じゃなくて、誰かさんだし」
「…藤代っ」
「そんな切羽詰った声出さないでください、ホントに引き伸ばしたくなっちゃうじゃん。俺もなんだっけ、…え~と、情け心?くらいはあるんすよ」
「ふざけんなっ」
「ふざけんな。…こんなふうにしといて、ですか?」
常に似合わずひどく真面目な顔でそう反復されて、反射的に身体をこわばらせた。
*
「…うっ……はっ、ァ…」
頭が朦朧とする。
この30度を超える気温と、コピー機の機械熱と、身体の内側から溢れ出る熱さと。わけがわからない熱にまみれてどうにかなってしまいそうだった。
藤代が空いていた方の手を三上の頭に伸ばして、酷く優しい手つきで髪を撫でた。もう片方の手は、まるでそれを打ち消すような冷酷さで勃起した三上の根元をきつく握り締めているというのに。
「あと25分はあるみたいだよ」
まるで他人事のように投げ寄越された言葉に、三上は力なく睨み返した。自身に触れるその手をかきむしってズタズタにしてやりたい衝動と、この男に全てを委ねてしまいたい誘惑の対立の間で、身動きがとれない。
なんでだ、と思った。
職員室に、ネクタイを取りに来ただけなのだ、なのに、なんでこんなことに。
(…しょうもねえなあ、錆びてんのかよ)
三上は再び響いてきたその音に、息を詰めたまま眉を寄せた。
たしか今年最初の真夏日を記録した先々週の末からずっと、クーラーは故障したままだった。私立の名門校たるものが、予算不足もないだろう。まあ、この部屋にクーラーがなくたって、別にどうでもいいんだけど。ていうかむしろザマミロ?
(…でも、今ないのはありえねえ)
上体を支える腕をダラダラと汗が流れて、その気持ち悪さに閉口する。信じらんねえ、まるでサウナだ。
開け放たれた窓から差し込む直射日光が、中途半端に引かれたカーテンの隙間を縫うようにして床に落ちている。けれど意識を集中させて耳を澄ませば、蝉の大合唱の向こう側、体育館の方から微かにざわめきが聞こえてくるような気がした。
時刻は朝の8時半。体育館では、全校集会が始まる時刻だった。
視線だけを動かして壁の時計を見た時、まるでそれを待っていたかのようなタイミングで長針が動いて、反射的に肩を揺らした。どこか朦朧としていた思考が、現実に引き戻される感覚がする。背を預けたコピー機が、重心を動かしたせいでガタン、と大きな音をたてて揺れた。そういえば、と思う。ただでさえ暑い部屋で、なんだって敢えてこんなさらに熱いところにいるんだ?
「…あと、30分くらいだね」
まるで思考を読んだようなタイミングで声がして、吸いかけていた息を思わずごくりと飲み込んだ。飲み込みきれなかった息が喉にひっかかって、小さく咳き込む。時計を見るために立ち上がっていた藤代が、その音につられるようにしてゆっくりと体ごと向き直る気配がした。
視線が落ちてくる。
いや、多分そうなのだろうと、板敷きの床を凝視しながら三上は思った。そして思ったまま、無意識に身を縮めた。どこか、思考がぼやけている。インクに水が垂れたときのような緩慢さで、じわり、と何かが迫ってくるような感覚がする。恐怖のような、絶望のような、そして期待のような。
けれど何が出来るというわけでもなかった。上がる息を抑えることにただ集中しながら、呼吸を繰り返す。吸って、吐いて、吸って、吐いて。
無駄なことは、わかっている。
何でもないふりを装おうとしたって、どうせ端からバレているのだから。藤代は無言で、けれどその視線がひどく粘着質に絡みついている。肌蹴たシャツと、チャックだけ下ろされたズボンと、そして……、
「……っ」
瞬間藤代の表情を想像してしまって、身体の熱という熱が下半身に集中した。一瞬目の前が真っ白になる。
たまらずぎゅっと目をつぶった。藤代が見ている。違う、そうじゃない。早く、ここを立たなければ。
先輩、と藤代がしばらくの間を開けて声を発した。
「早くやっちゃおう」
「…藤代っ、…っ!」
ぎょっ、とした。
直接的な言葉と、そして何の前触れもなく伸びてきた手に。
条件反射で上げた声が、必要以上にうわずっていて一瞬、泣きたくなった。しゃがみ込んだ藤代が、覗き込んだ目で楽しそうに笑った。
「いいですよ、俺は。別に間に合わなくても。集会終わって先生達みんな帰ってきても。見られて困る格好をしてるのは俺じゃなくて、誰かさんだし」
「…藤代っ」
「そんな切羽詰った声出さないでください、ホントに引き伸ばしたくなっちゃうじゃん。俺もなんだっけ、…え~と、情け心?くらいはあるんすよ」
「ふざけんなっ」
「ふざけんな。…こんなふうにしといて、ですか?」
常に似合わずひどく真面目な顔でそう反復されて、反射的に身体をこわばらせた。
*
「…うっ……はっ、ァ…」
頭が朦朧とする。
この30度を超える気温と、コピー機の機械熱と、身体の内側から溢れ出る熱さと。わけがわからない熱にまみれてどうにかなってしまいそうだった。
藤代が空いていた方の手を三上の頭に伸ばして、酷く優しい手つきで髪を撫でた。もう片方の手は、まるでそれを打ち消すような冷酷さで勃起した三上の根元をきつく握り締めているというのに。
「あと25分はあるみたいだよ」
まるで他人事のように投げ寄越された言葉に、三上は力なく睨み返した。自身に触れるその手をかきむしってズタズタにしてやりたい衝動と、この男に全てを委ねてしまいたい誘惑の対立の間で、身動きがとれない。
なんでだ、と思った。
職員室に、ネクタイを取りに来ただけなのだ、なのに、なんでこんなことに。
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