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ドアノブを握ったまま、三上は思った。
前にもこういう光景を見た気がする。
寮に帰り、自室の扉を開けてみれば、数人の同級生が物憂げな面持ちで車座になっていた。3人寄ればなんとやら、改め3人よれば大騒ぎの中学1年生という原則から考えれば、それだけで異様な雰囲気ではある。
「・・・何やってんの?」
なんとなく予想はついてしまったけれど、聞いてみた。
近藤が顔をあげる。
「お、おかえりー。いや・・・これ、藤代先輩に渡しといてって先生に頼まれたんだけど・・・」
プリントの束を持ち上げたまま言いよどんだ近藤の後を、三上は継いでやった。
「今日、機嫌悪かったもんな」
三上に背をむけたまま、中西がやれやれ、とでも言いたげに肩をすぼめた。
理解した。ようは、なすりつけあっているのだ。
触らぬ神にたたりなし。おそらく1年生で、藤代先輩に好きこのんで接触したがるやつはいないだろう。いるとすれば、よほどのマゾか、渋沢くらいのものだ。
その上、今日はすこぶる機嫌が悪かった。できるなら、近寄らず、何の被害もうけず、平和にいちにちを終えたいと考えてしまうのは、小市民にとって仕方のないことなのだ。
「渋沢は?」
一応、聞いてみた。
「いない」
「・・・ですよね、・・・じゃあ、」
場の空気におされたせいか一瞬言いよどんでしまって、けれどはっきりと言い直した。
「じゃあ、おれ行く」
よほど意外だったのか、みんな一瞬ぎょっとした表情で三上を見た。
無言の間がややあって、中西が初めて振り向いた。
「おまえ、Mだったのか」
「あほか」
近藤からプリントを受け取って、今入ってきたばかりの、ドアを出た。
三上は今しがたの皆の反応を思い出して、廊下を歩きながら笑ってしまった。
種あかしをしよう。
実のところ、おれは藤代先輩が、それほど怖いとは思わないのだ。
先輩の部屋をノックして中に入ったとたん、飛んできたのは怒声だった。
「おっせーよ」
ベッドに寝転んだまま、先輩はちらりとこちらに視線を向けて、ひどく不機嫌そうに寝返りをうった。
「これ、先生からです」
「聞いてねえよ、おっせーっつってんの」
どうやら、昼間からずっと機嫌はおさまっていないようだった。三上は手渡すことをあきらめて、プリントを机の上に置いた。そして枕の側に近寄ると、カーペットの上に膝を折った。念のため、「すみませんでした」と謝罪の言葉を口にする。
「何がすみませんでしたかわかってんの?」
もうおそい。いまさら、後悔を覚えた。
先輩が怖くはないというのは本当だけれど、それは、普段の状態でのことだ。機嫌の悪い先輩は、本当に手のつけようがないってこと、すっかり失念していた。
それか、あれだ、おれ、もしかしたら本当にMなのかも。
緊張しながら頭を巡らしてみたけれど、さっぱり思い浮かばなくて泣きそうになった。
「・・・わからないです」
瞬間、背を向けていた先輩が動いた。思わず、反射的に、ぎゅっと目を閉じる。
「あはははは!」
不意に響いた笑い声に、三上はおそるおそる目を開けた。目の前には、何がおかしいのか、爆笑する先輩。思わず呆然とした。
「なん、・・・」
「ばーか、殴んねえよ。からかっただけだって」
「・・・かえります」
狂ったように笑い続ける先輩に、さすがにむっとした。
けれど立ち上がりかけた瞬間、腕を引っ張られて強引に元に戻される。
「まてよ、でもおっせーてのは本心。コンビニ行きたかったのにお前こないんだもん」
あきれて力が抜けた。
もしもおれがプリントを持ってこなかったら、この人はどうしたというのだろう。
「・・・ひとりで行けばいいじゃないっすか」
「アホか、行けるなら行ってるっつうの」
「それか、俺行ってきますよ」
「だから言ってんだろ、自分で選びたいって」
たしかに、誰かをパシればいいものを、必ず自ら買出しに行きたがるのは、それが理由なのだということは十分すぎるほど知っている。
そして、1人で行けないもうひとつの理由も。
「ああ、そうですね、コンビニまではどう頑張っても墓地を通りますからね」
「いい度胸じゃねえか。仕返しのつもりか?今日の俺は最高に機嫌が悪いって知ってんだろうな?」
そう言ってさっきとは違う笑みを浮かべた先輩に、思わず後ずさりした。
気まぐれで、自分勝手で、鬼だのなんだの言われて恐れられているこの先輩が、怖い物が苦手なのだとしったら、皆はどう思うのだろう?
でも、まだ、もう少し、それを知っているのは自分だけでいい、と思う。
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リリカルな誠一三上を書いてみようと思い立ちました。でもそもそもリリカルって何?(^v^)最初からつまづいた。