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『三上→藤代で、三上が藤代のことを好きだっていうのがバレちゃうんだけど、藤代はその時点では三上のことが好きじゃないので振られる。でも卒業してあえなくなってから、藤代はだんだん三上のことが気になってきて、そんな折にOB会か何かで再会する。三上は藤代のことをまだ好きだけど、忘れようとしている。意地とかもある。』
◆
藤代がくる、と聞いたのは、飲み会の始まる少し前だった。
武蔵森を卒業してから2年と少し。今も、高3の頃のサッカー部のメンバーとは定期的に会っている。ほとんどが大学に進んだから、毎回声をかければそれなりの人数が集まった。反面、高校卒業してプロになったやつや就職したやつらは、中々時間が合わず会えないままでいるのが実情といったところだった。だから、今回もいつもと同じメンバーがそろうものと安心していたのだ。
藤代と会うには、少し、ほんの少しだけ心の準備がいる。そして、できるならば、もう二度と会いたくないと思っていた。
「あれ、三上今日飲まなくねえ?」
向かいに座っていた近藤が、一向に減らないグラスを目ざとくみつけた。チッ、と内心舌打ちをする。
「明日練習あるから、おさえてんだよ」
何気なく言った言葉に、近藤が目を丸くする。
「お前そんなにストイックだっけ」
「あ~、しんどくなりたくないっていう、消極的な理由」
「こいつさあ、先輩に目つけられてんの」
違うところで話しに興じていたはずの根岸が、耳ざとく会話を聞きつけて割って入ってくる。根岸とは同じ大学の同じサッカー部に所属していて、この場の連中が食いつきそうなネタをいっぱい持っているから、手に負えない。うんざりした気持ちで、グラスの縁を舐めた。ビールの苦味が舌の先にしつこくまとわりついてきて、嫌な気分になる。なぜだか、今日は全然ビールがうまくない。
「なんもねえよ」
明らかに根岸が楽しんでいる様子なのが気に食わなくて、ぶっきらぼうに否定する。けれど、「なんもねえ」という三上の言葉など誰も聞いてないのだから、たいして意味はない。
いつの間にか「なんだなんだ」とそここの話を中断して、根岸の話に聞き耳をたてる姿勢が整っていて、苦い気持ちになる。このチームワークを2年前の国立で観たかったぜ。
「マネージャーに可愛い子がいてさあ、その子のこと先輩が狙ってたのに、実はその子は三上のことが好きだったってわけ」
おおー!なにー!?と口々にと盛り上がるメンバーをできるだけ見ないようにしながら、目の前のお皿に残っている焼きソバをつまむ。味が濃くて、ソースの味しかしない。
「写真ねーの?」
「あるある。……ほら、この子」
根岸が携帯を操作して、画面に写メを表示させる。なんでお前が持ってんだよ、と写メを横目でみながら、心の中で悪態をつく。口に出しても、どうせ無視されるか、からかわれるだけだ。
「うそだろ、ちょう好み!三上のくせに・・・!」
近藤が絶望した声を上げた。三上のくせにってなんだ、くせにって。もう、ヤケクソになる。
「あっちが勝手に好きって言ってんだろ、俺は関係ねえよ」
「きゃー、三上くんかっこいい!硬派!」
「しねっ」
言わんこっちゃない。いつの間にか隣にやってきていた中西が気持ち悪いことを言うので、これまでの鬱憤をこめて殴ってやった。ざまあみろ。
「まあそんなわけで、三上の態度がこんななもんで逆恨みを買ってしまって、練習ではかわいそうなことに相当しごかれるんだよね」
「かわいそうな顔してねーよ、明らかに喜んでるだろ」
「だって!俺だってムカつくもん!!!」
「お前もかよ!」
こうやって騒いだり喋ったりしている間中も、実のところ、意識の半分は左側の方に囚われていた。飲み会の間中ずっと、左斜め向かい側を見ないようにしていた。少しだけの心の準備が、できていなかったからだ。
「藤代!?」
突然、左斜め向かい側で人が立ち上がる気配がした。驚いた笠井の声がする。思わず、条件反射でそちらを見てしまう。
しまった、と思ったのは、こちらを挑むように見下ろす藤代と目が合ってしまったときだ。そのまま、俺にだけわかるように、視線をトイレの方に向けた。生唾を飲み込んだ。気圧されて、無意識に頷いてしまう。
「ごめん、ちょっとトイレ行きたくなっちゃった」
打って変わったようにへらへらと笑いながら、藤代は席を立った。
去っていく藤代の背中に、困惑した視線を向ける。なんだ、あいつ、なんで怒ってるんだ・・・?ていうか、え・・・?
そこでようやく先刻のやりとりの意味に気づいて、はっとした。つまり、トイレに来い、ということだ。そして、三上は、不本意ながらもそれに同意してしまった。 まてまてまて、二人っきりでとか無理です。無理だよ心の準備できてねえよ、だったら最初から普通に無視しないで話してればよかったよ、あ、そうか、無視してたのに怒ってんのか?謝るから戻ってきてくれ、おい、藤代!
願いを込めるように藤代が消えて言ったトイレの方向を見たけれど、誰かが戻ってくる気配など微塵もしなかった。
(・・・落ち着け、落ち着け、俺。何びびってんだ、俺は先輩だぞ。)
深呼吸ひとつ、さっきから一向に減らないビールを、ぐっと一気に喉に流し込んだ。あまり満たされていなかった胃に、アルコールが回る。
行きたくないという思いがイスに体を縛り付けるのを、無理やり引き剥がし立ち上がった。
無視していたのを気づかれてしまったのなら、それは謝るべきだ。
自分に対する言い訳を呟いて、藤代の後を追った。
◆
藤代がくる、と聞いたのは、飲み会の始まる少し前だった。
武蔵森を卒業してから2年と少し。今も、高3の頃のサッカー部のメンバーとは定期的に会っている。ほとんどが大学に進んだから、毎回声をかければそれなりの人数が集まった。反面、高校卒業してプロになったやつや就職したやつらは、中々時間が合わず会えないままでいるのが実情といったところだった。だから、今回もいつもと同じメンバーがそろうものと安心していたのだ。
藤代と会うには、少し、ほんの少しだけ心の準備がいる。そして、できるならば、もう二度と会いたくないと思っていた。
「あれ、三上今日飲まなくねえ?」
向かいに座っていた近藤が、一向に減らないグラスを目ざとくみつけた。チッ、と内心舌打ちをする。
「明日練習あるから、おさえてんだよ」
何気なく言った言葉に、近藤が目を丸くする。
「お前そんなにストイックだっけ」
「あ~、しんどくなりたくないっていう、消極的な理由」
「こいつさあ、先輩に目つけられてんの」
違うところで話しに興じていたはずの根岸が、耳ざとく会話を聞きつけて割って入ってくる。根岸とは同じ大学の同じサッカー部に所属していて、この場の連中が食いつきそうなネタをいっぱい持っているから、手に負えない。うんざりした気持ちで、グラスの縁を舐めた。ビールの苦味が舌の先にしつこくまとわりついてきて、嫌な気分になる。なぜだか、今日は全然ビールがうまくない。
「なんもねえよ」
明らかに根岸が楽しんでいる様子なのが気に食わなくて、ぶっきらぼうに否定する。けれど、「なんもねえ」という三上の言葉など誰も聞いてないのだから、たいして意味はない。
いつの間にか「なんだなんだ」とそここの話を中断して、根岸の話に聞き耳をたてる姿勢が整っていて、苦い気持ちになる。このチームワークを2年前の国立で観たかったぜ。
「マネージャーに可愛い子がいてさあ、その子のこと先輩が狙ってたのに、実はその子は三上のことが好きだったってわけ」
おおー!なにー!?と口々にと盛り上がるメンバーをできるだけ見ないようにしながら、目の前のお皿に残っている焼きソバをつまむ。味が濃くて、ソースの味しかしない。
「写真ねーの?」
「あるある。……ほら、この子」
根岸が携帯を操作して、画面に写メを表示させる。なんでお前が持ってんだよ、と写メを横目でみながら、心の中で悪態をつく。口に出しても、どうせ無視されるか、からかわれるだけだ。
「うそだろ、ちょう好み!三上のくせに・・・!」
近藤が絶望した声を上げた。三上のくせにってなんだ、くせにって。もう、ヤケクソになる。
「あっちが勝手に好きって言ってんだろ、俺は関係ねえよ」
「きゃー、三上くんかっこいい!硬派!」
「しねっ」
言わんこっちゃない。いつの間にか隣にやってきていた中西が気持ち悪いことを言うので、これまでの鬱憤をこめて殴ってやった。ざまあみろ。
「まあそんなわけで、三上の態度がこんななもんで逆恨みを買ってしまって、練習ではかわいそうなことに相当しごかれるんだよね」
「かわいそうな顔してねーよ、明らかに喜んでるだろ」
「だって!俺だってムカつくもん!!!」
「お前もかよ!」
こうやって騒いだり喋ったりしている間中も、実のところ、意識の半分は左側の方に囚われていた。飲み会の間中ずっと、左斜め向かい側を見ないようにしていた。少しだけの心の準備が、できていなかったからだ。
「藤代!?」
突然、左斜め向かい側で人が立ち上がる気配がした。驚いた笠井の声がする。思わず、条件反射でそちらを見てしまう。
しまった、と思ったのは、こちらを挑むように見下ろす藤代と目が合ってしまったときだ。そのまま、俺にだけわかるように、視線をトイレの方に向けた。生唾を飲み込んだ。気圧されて、無意識に頷いてしまう。
「ごめん、ちょっとトイレ行きたくなっちゃった」
打って変わったようにへらへらと笑いながら、藤代は席を立った。
去っていく藤代の背中に、困惑した視線を向ける。なんだ、あいつ、なんで怒ってるんだ・・・?ていうか、え・・・?
そこでようやく先刻のやりとりの意味に気づいて、はっとした。つまり、トイレに来い、ということだ。そして、三上は、不本意ながらもそれに同意してしまった。 まてまてまて、二人っきりでとか無理です。無理だよ心の準備できてねえよ、だったら最初から普通に無視しないで話してればよかったよ、あ、そうか、無視してたのに怒ってんのか?謝るから戻ってきてくれ、おい、藤代!
願いを込めるように藤代が消えて言ったトイレの方向を見たけれど、誰かが戻ってくる気配など微塵もしなかった。
(・・・落ち着け、落ち着け、俺。何びびってんだ、俺は先輩だぞ。)
深呼吸ひとつ、さっきから一向に減らないビールを、ぐっと一気に喉に流し込んだ。あまり満たされていなかった胃に、アルコールが回る。
行きたくないという思いがイスに体を縛り付けるのを、無理やり引き剥がし立ち上がった。
無視していたのを気づかれてしまったのなら、それは謝るべきだ。
自分に対する言い訳を呟いて、藤代の後を追った。
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