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記憶は桜の舞い散る渡り廊下から始まる。
それは、高校2年になったばかりの春のことだった。
校舎から体育館につながる渡り廊下。春休み明けの少し浮かれた雰囲気の中で、仲間とふざけあって始業式に向かう道上のことだった。不意に肩をなでるようにするりと誰かが傍らを通り過ぎ、挑発的なその行為に反射的にむっとして三上は顔をあげた。そのまま去って行くであろう背中に暴言を吐こうとして開きかけた口はしかし、あげた目と予想外に絡まった視線に硬直する。相手は立ち去るどころか、振り返って三上をまっすぐに見返していたのだ。
はらはらと舞い散る桜の花びらを背景に、人懐っこい笑みをたたえて立っていたのは一年下の後輩だった。
「…ふじ、しろ」
呟いたつもりの言葉は、けれどただの吐息となって空気中に散らばった。その一瞬何をそんなに動揺していたのか、振り返ってみてもよくわからない。冷静に考えてみれば、当然の事なのだ。三上はこの春2年になり、1年後輩である藤代が高等部に上がり、また校内で顔をあわせることになるということは。ましてやサッカー部の練習ではすでに毎日のように顔をあわせて、いて。考えてみなくても、それはごく自然なことだった。
ただはっきりいえるのは、その瞬間なにか熱情のようなひどく胸を高鳴らせる感情が体の内を駆け抜けていって、その熱さに一瞬翻弄されたのだ。頭蓋骨のずっと奥から響いてくるような、低い耳鳴りがした。
それは、何かの始まりのようだった。いや、もしかしたらただの終わりであったのかもしれないけれど。
「先輩、おまたせ」
「…、」
その時不意に吹き抜けた一陣の風に、一瞬返答につまった三上をあざ笑うように舞い落ちてきた桜が視界をふさいだ。桃色の洪水に3度瞬きをしてようやく開いた視界の向こう、けれど藤代の背中は生徒の群れの中に風塵を残して掻き消えていた。
そうして手元に残ったのは、いつだってつかみ取れない余韻だった。
「…まってねえし」
拗ねるように人垣にむけて呟いた言葉に、傍らの友人が「ん?」と聞き返してきて、三上はなんでもねえ、とはき捨てた。
思えば高校時代の思い出は、そこから始まっている。1年の頃の思い出はまったくといっていい程覚えていないのだから、笑える話だ。
それは、高校2年になったばかりの春のことだった。
校舎から体育館につながる渡り廊下。春休み明けの少し浮かれた雰囲気の中で、仲間とふざけあって始業式に向かう道上のことだった。不意に肩をなでるようにするりと誰かが傍らを通り過ぎ、挑発的なその行為に反射的にむっとして三上は顔をあげた。そのまま去って行くであろう背中に暴言を吐こうとして開きかけた口はしかし、あげた目と予想外に絡まった視線に硬直する。相手は立ち去るどころか、振り返って三上をまっすぐに見返していたのだ。
はらはらと舞い散る桜の花びらを背景に、人懐っこい笑みをたたえて立っていたのは一年下の後輩だった。
「…ふじ、しろ」
呟いたつもりの言葉は、けれどただの吐息となって空気中に散らばった。その一瞬何をそんなに動揺していたのか、振り返ってみてもよくわからない。冷静に考えてみれば、当然の事なのだ。三上はこの春2年になり、1年後輩である藤代が高等部に上がり、また校内で顔をあわせることになるということは。ましてやサッカー部の練習ではすでに毎日のように顔をあわせて、いて。考えてみなくても、それはごく自然なことだった。
ただはっきりいえるのは、その瞬間なにか熱情のようなひどく胸を高鳴らせる感情が体の内を駆け抜けていって、その熱さに一瞬翻弄されたのだ。頭蓋骨のずっと奥から響いてくるような、低い耳鳴りがした。
それは、何かの始まりのようだった。いや、もしかしたらただの終わりであったのかもしれないけれど。
「先輩、おまたせ」
「…、」
その時不意に吹き抜けた一陣の風に、一瞬返答につまった三上をあざ笑うように舞い落ちてきた桜が視界をふさいだ。桃色の洪水に3度瞬きをしてようやく開いた視界の向こう、けれど藤代の背中は生徒の群れの中に風塵を残して掻き消えていた。
そうして手元に残ったのは、いつだってつかみ取れない余韻だった。
「…まってねえし」
拗ねるように人垣にむけて呟いた言葉に、傍らの友人が「ん?」と聞き返してきて、三上はなんでもねえ、とはき捨てた。
思えば高校時代の思い出は、そこから始まっている。1年の頃の思い出はまったくといっていい程覚えていないのだから、笑える話だ。
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