まさにジャンク 誠一攻め 忍者ブログ
夢とホモ入り乱れて完全に好き勝手お送りしています。
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※性描写含みます。ていうかプラネタリウムの解説真剣に考えたのに、まるでエロのみです。すみません。




 「・・・次に、南東の空をごらんください。冬は空気が澄んでいるので星が見えやすい季節です。東京の空でも、簡単に星座を探すことができます。そして空を見上げて一番最初に見つけることができるのが、この星座です。みっつ、星が並んでいるのがわかるでしょうか。そこを中心に大きく線を伸ばしてみると、砂時計のような形を描けます。そうです、オリオン座です。そしてさらに、この三ツ星をたどって東側に目を向けてみてください。夜空に輝く、ひときわ明るい星を見つけられるはずです。地球から見える恒星の中では太陽の次に明るいと言われている、シリウスです。シリウスは、おおぐま座……」

 ・・・やべえ、眠い。
 かみ殺しきれなかったあくびが、咄嗟に隠そうとしたてのひらを通り抜けていく。ちらりと左側を見たのは、習い性のようなものだ。つい、機嫌を伺ってしまう。
 暗闇に薄ぼんやりと見える横顔は、先刻と同じように星空に向いている。こっちに気づいた気配はなくて、内心ほっとした。
 眠気は、けれどそれで引いてくれるわけではなく、けだるい小波のように襲ってくる。たとえば隣にいるのが誠一でなかったなら。たぶん、もうとっくに夢の中に落ちていただろう。ここで眠ってしまうことへの恐怖感が、眠気に辛うじて勝利している状態だった。
 一体これ、あと何分あるんだ?ああ、ちゃんと時間把握しておけばよかった・・・。
 延々と続くように思える解説に、軽く絶望した、その時。
「・・・・・・!」
 星空を一心に見上げていたはずの誠一の手が、三上の膝にふれた。それがあまりにも唐突すぎて、思わず声を出しそうになるのを寸前で堪える。今度は恐る恐るではなく、明確な意思を持って左側を見た。けれど、誠一はまるで何事もないかのように、無表情に星をながめている。さっきと同じように。
 完全に文句を言うタイミングを失って、戸惑った視線を膝にむけた。口で文句を言えないのに、払いのけるなんてことができるはずがない。
 誠一の手は、膝から太ももを撫でるようにゆっくりと這い上がってくる。柔らかく触れた手で、ジーンズの生地が肌を掠める度に身を強張らせた。
 くすぐったい。だめだ、意識すると・・・。
 くっと唇を噛んで、視線を星空に戻した。意識するな、と言い聞かせる。たぶん意識したら、この人の思うツボなのだ。こんな所で。こんな所でくすぐったさの向こう側にはたどり着きたくなくて、必死に星空に意識をむけた。
「・・・・っ!」
 手が、そんな三上の行動をあざ笑うように、太ももの内側に触れる。誠一は、相変わらずこちらには目もくれない。なのに、確かに明確な意図を持ったその動きは、星空へむけようとしていた三上の意識を強引に引き戻した。
 触れる手は、相変わらず柔らかい。
 けれど、その手がすくいあげるものは残酷だった。身体に植えつけられてしまったものなのか、心が覚えているのか。誠一の触れる場所から、じわじわと熱が広がっていく。直接的でない刺激は、けれど記憶が誠一の手を補完して、錯覚する。
 うそだ、冷静になれ、と言い聞かせる。誠一の手は、ただジーンズの上をなでているだけなのだ。それだけで、感じるわけ・・・・・・感じる?
 言葉にしてみると、生々しく感じてその言葉に絡めとられる。意識する。
 誠一の手が、熱をもち始めたその場所を円を描くように往復した。
 もう、星空に意識を貼り付けることなどしていられなかった。
「…せんっ…ぱい…ッ」
 耐えられなくなって、小声で呼んだ。けれど、よこされたのはただの沈黙だった。
 もどかしい、と思っている自分に泣きたくなる。さっきから触れてくる手は布越しで、しかも柔らかい。もっと触れてほしい、とよりにもよってこの場所で思っている自分がたまらなく恥ずかしい。
 もう、これ以上・・・・

 そう思ったとき、不意に辺りが明るくなった。ドームの星が明かりの向こうに消えていくのと同じようなスピードで、誠一の手が遠ざかっていく。

 遠ざかっていく手に追いすがりたい気持ちを押さえつけて、静かに息を整える。隣に座る誠一が身じろぎした気配に、反射的に身体を強張らせた。急激に明るくなった室内で、素っ裸で放り出されたような心もとない気持ちになる。
 ・・・バレているだろうか?絶対バレてる、ていうか、バレないわけねえ・・・顔、熱いし。前もつらい。ごまかしようがない。
 情けない気持ちで恐る恐る誠一の方に顔を向けた。
「・・・・おまえさ、」
 誠一が、ひどく冷たい目でこちらを見ていた。
 居たたまれない気持ちに、押しつぶされそうになる。
「まあいいや、行くぞ」
 何かを言いかけた誠一は、けれど珍しくそれを飲み込んで立ち上がった。
 絶対、何かひどいことを言われると思ったのだ。ぐっと覚悟してかみ締めていた奥歯が所在なく緩む。
「え、あの・・・」
「ぐずぐずすんな」
「あの、ちょっと、トイレ寄っていいですか?」
 咄嗟に言ったのは、たぶん誠一の反応に動揺していたからだ。あと、自分が思ったよりも、切羽詰っていたのだと思う。
 向こうに行きかけた冷たい視線がもどってきて、思わず視線を外す。
「早くしろ」
 はき捨てるような言葉に視線を戻すと、誠一はもう背中をむけていた。
 のろのろと、立ち上がる。


 トイレは幸い、誰もいなかった。プラネタリウム自体、人がまばらだったのだ。
 個室のドアに背をもたれて、大きく息を吐き出す。けれど、ゆっくりしている暇はない。誠一を待たせているのだ。
 機械的にやればいいのだ、いつものように。そう思ったけれど、こんな場所で、誠一に触れられて、興奮して、自慰をするという事実がどうしても耐えがたかった。けれど、誠一の手の感触がまだ肌の上に残っていて、その疼きは消えてくれない。そして何より、この疼きを抱えたまま誠一と帰路を共にするなんて、考えたくなかった。それこそ、拷問にちがいない。
 半ばあきらめるようにして、下半身に手を伸ばす。
 しかし、その時不意に割ってはいってきた『ガンッ!』という物音と、もたれたドアの震動に手が止まった。 
 ドアが蹴られたのだ。
「!?」
「おい開けろ」
 問いかける前に降って来たのは、抑揚のない低い声だった。そして、開けないはずがないと信じて疑わないというような、そんな傲慢な響きがあった。
「……先輩?」
「他に誰がいんだよ、開けろ」
「んな…嫌、です。すぐでますから」
「ふうん、お前早漏だもんな」
「・・・!!!!そんなこと、」
「服の上から触っただけで勃っちゃうしな。早漏で淫乱とか救いようねえな」
「・・・っ、やめてください、違います・・・・」
 嘲るような声に、恥ずかしくて死にたくなる。ドアの向こうで冷笑している誠一の顔がありありと浮かんだ。浅はかな自分を呪いたい。誠一は、全部わかっていたのだ。
「どうせ、俺の事考えながら抜くんだろ?お前がここ開けないなら、ここから指南してやるからその通り触れよ、お前が感じるところ教えてやるよ。そういうの好きなんだろ?・・・そうだな、じゃあまず、乳首に・・・・、おう」
 篭城なんて、最初からできないとわかっていた。耐えられなくなってドアを開くと、誠一が殊勝に笑った。
「ていうか、お前に選ぶ権利なんて最初からねえんだけど」
 突き飛ばされるように個室内に押し込まれる。
 プラネタリウムのトイレといえど、トイレまで宇宙的なわけではない。圧迫感を急激に感じて、詰めていた息を吐き出した。
「さて、どうぞ、続けて」
 誠一が、壁に肩をついたまま、まるで当然のように言った。
「・・・なに、言ってんすか」
 ぎょっとして、誠一を見る。
「あ、そうか、俺が教えてやんないといけないんだっけ。面倒くせえな」
「ちが、くて・・・」
「あっ、俺に触ってほしいの?」
 誠一の手が、シャツの上から胸をなぞる。今日に限って薄着できてしまったことを後悔する。誠一の指先が、触れる前から硬くなっているその場所をあざ笑うように掠める。器用に外したボタンの隙間から指が入り込んで、乳首を摘んだ。
「・・・・くっ!!!」
 痛みのような快感が下半身に駆け下りていく。今日初めて素肌に触れた誠一の手の感触は強烈で、それをずっと欲していたことを強引に認識させられる。
「なあ、聞いてる?俺に触ってほしいの?」
 隠そうとしない苛立ちが、言葉ににじみ出る。ここで意地を張っても全然いいことはないとわかっていた。むしろ、悪くなるということも。拒否したら、誠一は自慰を強いるに決まっていたから。
「・・・・はい」
 けれど、それを肯定するのはひどく屈辱だった。唇をかみ締めてうな垂れる。
「ふうん・・・だけど、聞いてなかった?お前に選ぶ権利なんてないんだよね」
 はっとして、あげてしまった視線に後悔する。
 誠一が、獲物を追い詰めた猛獣のように、獰猛な眼で笑っていた。


(終わりである!終わりである!)
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  裏切られた、気がしたのだ。

藤代先輩の圧倒的な強さに惹かれたのは、多分理由なんてなくて、本能的なものだったのだろうと思う。強いものに惹かれる、動物的な本能。けれど、実のところ彼の強さは、そのまま弱さの裏返しでしかなかった。
 今から思えば、ただの身勝手な考えにすぎない。だけど、たしかに裏切られた、気がしたのだ。
ちょうど、こんな陰鬱な雨が降る、去年の今ごろだった。
 
「お前、最近調子悪くね?スランプ?まあ、いい気味だけど」
「いい気味!?励ましの言葉は!?」
「あー?だって、お前はできすぎんだよ。人並みにスランプとかあった方が、人間味があっていいじゃん」
「三上先輩は、いつも人間味がありますね」
「どーゆう意味」
「いつも悩んでる」
 
「あ、この漫画俺読みたかったんすよー!読んでいっすか?」
「だめ。山田に返すから」
「あざーっす!山田って誰?」
「サッカー部の山田は1人しかいねーだろ…ってだから読むな」
「へー」
「へー、て、お前知らねえの?…もしかして、1軍以外のサッカー部員は知らないとか…」
「おれ頭悪いから」
「…まじかよ…最低だな…前から知ってたけど…」
「えー、三上先輩だって全員覚えてないっしょ?」
「そりゃ全員は覚えてねーけど…せめて2軍までは覚えとけ、お前も来年は3年になんだから」
「はーい」
「…まったく誠意が見えねえ。どうせ、俺のことも半年間くらい認識してなかったんだろ」
 三上が1軍にあがったのは、藤代が武蔵森に入ってきてから半年後くらいのことだった。
「え、」
 漫画に目を落としていた藤代が、顔をあげた。
「それは、ないです」
先輩だけが、俺を避けてたから。気になってた。
先輩は、いつでも兄ちゃんの味方だった。
なんで、俺が触ると、拒絶するの?
(藤代先輩の指を、思い出してしまうから)
ねえ、兄ちゃんとの間で、何かあったの?
いいなよ、でないと、力ずくで吐かせるよ?
 
 
兄ちゃん、三上先輩と何かあったの?
あいつは何かいってた?
なにも。
じゃあ、何もなかったんだろ。
俺は、あいつがかわいいよ。
あいつがいたおかげで、3年の間、サッカーができたと思ってる。
でもだからこそ、あいつを裏切るようなことを俺はしてしまった。
兄ちゃんは、いつも俺に、俺が欲しがるものを譲ってくれる。
でも、それって屈辱だよ。俺は兄ちゃんと、同じところで勝負したいのに。
譲ろうと思ったことなんて一度もない。
俺はただお前から、逃げているだけだよ。
三上のことも、そう思ってるのか?俺が大事にしてたから、奪おうとそう思ったのか?
俺が言えた義理じゃねえけど…、そんな気持ちであいつに手を出すなら、やめてやってくれ。
兄ちゃんがそんなこと、言う資格あんの?
俺は、あいつを壊すのがこわくて、何もできなかった。
そこまでの…覚悟はなかった。
 
 
 
先輩、約束してください。
兄ちゃんと、10番をとるっていう約束したんでしょう?
だったら、もっと上の約束。
先輩、プロになるって約束してください。
どんなに格好悪く、みっともなくあがいても、プロになってください。
(てめえと約束しなくたって、そのつもりだよ)


 ドアノブを握ったまま、三上は思った。
 前にもこういう光景を見た気がする。

 寮に帰り、自室の扉を開けてみれば、数人の同級生が物憂げな面持ちで車座になっていた。3人寄ればなんとやら、改め3人よれば大騒ぎの中学1年生という原則から考えれば、それだけで異様な雰囲気ではある。
「・・・何やってんの?」
 なんとなく予想はついてしまったけれど、聞いてみた。
 近藤が顔をあげる。
「お、おかえりー。いや・・・これ、藤代先輩に渡しといてって先生に頼まれたんだけど・・・」
 プリントの束を持ち上げたまま言いよどんだ近藤の後を、三上は継いでやった。
「今日、機嫌悪かったもんな」
 三上に背をむけたまま、中西がやれやれ、とでも言いたげに肩をすぼめた。
 理解した。ようは、なすりつけあっているのだ。
 触らぬ神にたたりなし。おそらく1年生で、藤代先輩に好きこのんで接触したがるやつはいないだろう。いるとすれば、よほどのマゾか、渋沢くらいのものだ。
 その上、今日はすこぶる機嫌が悪かった。できるなら、近寄らず、何の被害もうけず、平和にいちにちを終えたいと考えてしまうのは、小市民にとって仕方のないことなのだ。
「渋沢は?」
 一応、聞いてみた。
「いない」
「・・・ですよね、・・・じゃあ、」
 場の空気におされたせいか一瞬言いよどんでしまって、けれどはっきりと言い直した。
「じゃあ、おれ行く」
 よほど意外だったのか、みんな一瞬ぎょっとした表情で三上を見た。
 無言の間がややあって、中西が初めて振り向いた。
「おまえ、Mだったのか」
「あほか」
 近藤からプリントを受け取って、今入ってきたばかりの、ドアを出た。

 三上は今しがたの皆の反応を思い出して、廊下を歩きながら笑ってしまった。

 

 種あかしをしよう。
 実のところ、おれは藤代先輩が、それほど怖いとは思わないのだ。

 

 先輩の部屋をノックして中に入ったとたん、飛んできたのは怒声だった。
「おっせーよ」
 ベッドに寝転んだまま、先輩はちらりとこちらに視線を向けて、ひどく不機嫌そうに寝返りをうった。
「これ、先生からです」
「聞いてねえよ、おっせーっつってんの」
 どうやら、昼間からずっと機嫌はおさまっていないようだった。三上は手渡すことをあきらめて、プリントを机の上に置いた。そして枕の側に近寄ると、カーペットの上に膝を折った。念のため、「すみませんでした」と謝罪の言葉を口にする。
「何がすみませんでしたかわかってんの?」
 もうおそい。いまさら、後悔を覚えた。
 先輩が怖くはないというのは本当だけれど、それは、普段の状態でのことだ。機嫌の悪い先輩は、本当に手のつけようがないってこと、すっかり失念していた。
 それか、あれだ、おれ、もしかしたら本当にMなのかも。
 緊張しながら頭を巡らしてみたけれど、さっぱり思い浮かばなくて泣きそうになった。
「・・・わからないです」
 瞬間、背を向けていた先輩が動いた。思わず、反射的に、ぎゅっと目を閉じる。

「あはははは!」
 不意に響いた笑い声に、三上はおそるおそる目を開けた。目の前には、何がおかしいのか、爆笑する先輩。思わず呆然とした。
「なん、・・・」
「ばーか、殴んねえよ。からかっただけだって」
「・・・かえります」
 狂ったように笑い続ける先輩に、さすがにむっとした。
 けれど立ち上がりかけた瞬間、腕を引っ張られて強引に元に戻される。 
「まてよ、でもおっせーてのは本心。コンビニ行きたかったのにお前こないんだもん」
 あきれて力が抜けた。
 もしもおれがプリントを持ってこなかったら、この人はどうしたというのだろう。
「・・・ひとりで行けばいいじゃないっすか」
「アホか、行けるなら行ってるっつうの」
「それか、俺行ってきますよ」
「だから言ってんだろ、自分で選びたいって」
 たしかに、誰かをパシればいいものを、必ず自ら買出しに行きたがるのは、それが理由なのだということは十分すぎるほど知っている。
 そして、1人で行けないもうひとつの理由も。
「ああ、そうですね、コンビニまではどう頑張っても墓地を通りますからね」
「いい度胸じゃねえか。仕返しのつもりか?今日の俺は最高に機嫌が悪いって知ってんだろうな?」
 そう言ってさっきとは違う笑みを浮かべた先輩に、思わず後ずさりした。

 気まぐれで、自分勝手で、鬼だのなんだの言われて恐れられているこの先輩が、怖い物が苦手なのだとしったら、皆はどう思うのだろう?
 でも、まだ、もう少し、それを知っているのは自分だけでいい、と思う。



 複雑に絡まった糸は、例えば賢明にそれを解そうとしたって、大抵の場合途中で断念する。つまることろ、一度からまってしまった糸はよほどの奇跡がない限り、ほぐれることはないのだ。  
 おそらく、絶望的な勢いで。
いつからこんなことになってしまったのだろうか。
 まるで他人事のようにそう考えている自分に辟易する。
 少なくともその片棒を担ったのは俺で、そしてその頃俺は何も考えてはいなかった。そのツケが、今になって回ってきている。そういうことなのだ。
 だから、この人を憎むことはしたくない。
 …キレイ事だな。

「…三上」
「、ッハイ」
 はっとした。慌ててエレベーターの壁によりかかる誠一を見上げると、冷笑を返された。そしてその瞬間、ひどい後悔を覚える。この人といる時に上の空なんて、どうかしている。
「他の事考えてる余裕あんの?」
 先刻よりワントーン低い声で問われて、三上は内心冷や汗を掻いた。
「すみません、あの、例の会議の件ですよね」
「……」
 しまった、と思った。咄嗟に浮かべた愛想笑いを、誠一は見透かしたように視線を外した。
「三上」
「…、はい」
 足元に視線を落として、渋面を作る。たとえエレベーターの中であっても、二人きりになる時間を作ってしまったのは俺のミスだ。
 チン、という微かな音が響いて、エレベーターがとまる。思わずほっとして顔をあげたけれど、おそらくそれが、今日三上が犯した最大で、そして最悪なミスだった。誠一が降りる、そう思って我知らずほっとしたのもつかの間、次に続く誠一の言葉に瞬間、凍りついた。
「降りろ」
 従うしか選択枠のないことが、三上の体には十分に刻み付けられていた。言われるままに、エレベーターを降りる。背後でエレベーターの扉が完全に閉まる音がして、今度こそ三上は泣きそうになった。それでもほとんど無意識に、前を行く誠一の背を追った。
 今日は渋沢が外出しているのが幸いだったと、なんとか平静を保とうとしてそんなことを思っている自分がひどく煩わしくて、余計泣き出したくなった。


 社長室というプレートのつけられたドアを開くと、小雨の降るせいで白みがかった都心の景色が目の前に広がった。その部屋の主は、不在だった。わかってはいたことだけれど、そっと胸をなでおろす。
 誠一は何の躊躇もなく中央に置かれた机の前の、黒い革張りのイスに腰を下ろした。
 三上は入り口に立ちすくんだまま暫く葛藤して、けれど誠一の刺す様な視線に押されるようにして近寄った。
 慣れた動作で、誠一の足元に膝をつく。
 何を要求されているかはわかっていた。彼が何か言葉を発する前にそれをはじめなければ、さらにひどい仕打ちを受けることもわかりきっていた。損得を無意識に計算してしまう自分の頭が今はひどく憎らしい。
 動揺を悟られないようにして、ゆっくりと手を伸ばす。
「…失礼、します」
 ジッパーを下ろすその前に、許しを請うようにそう呟いた。誠一が、ふっと鼻で笑う気配がした。
「なに、お前そんなに俺のやつ舐めたいの」
 手が、一瞬止まった。
 屈辱に震える手をなんとか押しとどめて、絞りだすように返事を返した。
「…は…い」
 その瞬間、ガンッという音がして、気づけば自分が床に叩きつけられていた。誠一に蹴られたのだと分かったのは、顔の側に絨毯があることと、誠一の足の位置が僅かにずれているのを見たときだ。
「三上」
 三上は床に這いつくばったまま、恐る恐る顔をあげた。誠一は、いつもの、仕事の時に見せる有能な秘書の穏やかな微笑みを湛えて、三上を見下ろしていた。
「ふざけないでください」
 ぎょっ、とした。
 本能的に危険を感じて、三上は後ずさった。
 そして三上がありったけの謝罪の言葉を並べるその前に、誠一は顔に張り付かせた笑みを一瞬のうちに消し去った。そして、一転、ひどく不機嫌な声で彼は続けた。
「…俺にばれないとでも思ってんの?おとなしく従ってれば痛い目みないだろう、とかそんな底の浅い計算してんだろ?…あめーよ」
 周りの空間にあるもの全てが、さーっと後方に流れていくような感覚を覚えた。蒼白になった顔を、隠しようもなく誠一を見上げる。
「…まあそんなに怯えんなって、今日は可愛がってやるから」
 言葉の調子とは裏腹にひどく残虐な笑みを浮かべて、誠一が言った。
 覗きこまれた瞳の向こうに、底の知れない絶望を見た気がして三上はその場に凍りついた。


あの人は一生、満足という感情を知らずに生きていくんじゃないかと、ふと思った。

空にはいっぱいの星だった。
「三上」
まるでうめくように発せられた声に顔をむけると、呼んだはずの当人はその視線から逃れるようにごろりと寝返りを打った。さっきまで仰向けに寝ていた白いTシャツの背中には、芝生の残骸が無造作に張り付いている。
湿気を含んだ重たい空気が、辺りをのっそりと漂っていた。
「俺、実は宇宙人なんだ」
「……笑えないっすよ、先輩」
たっぷり一呼吸ためてからクソ真面目に眉を寄せると、誠一は呆れたように大げさなため息をもらした。
「ユーモアのカケラもない男だな、おまえは。話し合わせるくらいしろよ、話が先にすすまねえじゃん」
「……、へ、へ~、宇宙人なんですか!」
「死ね」
「……」
三上は傍らの誠一にならってごろりと仰向けに草の中に倒れこむと、鼻の奥を新緑の香りが一杯に満たすのを待って深呼吸をした。
「…部屋もどれよ」
空に視線を固定させたまま、ひどく面倒くさそうに誠一が言った。彼の背中に張りついたままの草の残骸が、妙に現実味を帯びていた。
「……」
「なに、シカト?」
「先輩、俺、先輩が星に詳しいことなんて知らなかったです」
「だろうね、だって俺、お前に何も言わなかったし」
つうかそんなこと聞いてねえし。苦笑した誠一の肩がかすかに揺れるのを認めて、三上はゆっくりと視線を再び夜空にうつした。


「なあ、星は生まれた時から、その質量によって一生の道がきまっているんだってさ」
突然ぽつりと呟いた誠一の言葉に正直なところ反応のしようがなくて、三上は曖昧な相槌を打った。けれど今度は三上の反応など端から期待していなかったかのように、誠一は構わず後を続けた。
「…だから、重い星ほど明るく輝くけれど、寿命は短い。常に輝いていなければいけない分、エネルギーを多く使わなきゃなんないんだろうね。そして、人間の一生も星の一生と似たようなものだと俺は思うよ。というよりも人間の一生が星のそれに似ているのかもな?もともと俺らの構成要素は宇宙からきてるわけだし」
まるで独り言のようにそこまで一気に言ってから、ようやく息をついた。
「三上」
「はい?」
「…誠二を、よろしく」
耳に届いたその声が貸すかに揺れるのに気づいてしまって、その途端、思わずそれから逃げるようにぱっと立ち上がった。条件反射だった。
誠一が無表情に顔をあげる。
「三上、俺は多分、お前が思ってるほどすごい人間じゃないよ」
「黙ってください」
なんだか唐突に苛立ちが募って、誠一の言葉を全否定でもするかのように吐き捨てた。そしてそこから立ち去るべくくるりと彼に背を向ける。その勢いのまま足を踏み出そうとして、けれど途端、体がふわりと宙に浮いた。誠一に足を引っ掛けられたのだと気づいたのは、大げさな音を立てて芝生の上に倒れこんだ瞬間だった。
「俺、お前のそういうとこ好きなんだけど」
……気が変わった。
思いっきり打った体の痛さに身悶えている三上の上に圧し掛かりながら、誠一はひどく楽しそうに笑って言った。

その表情にその場しのぎの安堵を覚えたことに、そののち何度も後悔を覚えた。
 

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