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夢とホモ入り乱れて完全に好き勝手お送りしています。
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秋雨は、まるで容赦なくそここにこびりついた夏の名残を洗い流す。

使い切れずに残った蚊取り線香、投げ出された団扇、外し忘れた風鈴、それから、蝉の死骸。庭に投げたスイカの種は、もうとうにどこかに消えてしまった。

開け放たれた縁側に、土砂降りの雨がばらばらと音を立てて打ち付けるその様子を、三上は畳に寝転んだままぼんやりと眺めていた。薄暗い室内は、三上の身体と闇の境界線を静かにぼかしている。



あの夏は、確かにここにあったのだろうか。
近頃はそれさえも、わからなくなっている。



不意に縁側の端に打ち捨てられていたはずの蝉の死骸を思い出して、三上は横たえていた体をゆっくりと起こした。そして億劫そうに腕の力だけでずるずると縁側まで這い出ると、雨に濡れる縁側を覗き込んだ。縁側の木にあたってはねた雫が、三上の黒い髪の毛を濡らしたけれど、彼は身じろぎもしない。
「…、いた」
久しぶりに発した言葉は、酷く掠れていた。三上はそれに舌打して、もう一度同じ言葉を口の中で言い直すと、縁側の隅で雨に濡れる蝉の死骸に手を伸ばした。



蝉の天下だった庭の音も、今ではすっかり虫の声に支配されていて。
その儚さに、言いようのない虚しさを感じる。




思えば、一体いつ藤代が自分の前から姿を消すのだろうかという恐怖が、まるで強迫観念になっていた最後の1週間だった。

『…三上さん』
藤代のものが自分の奥にずるずると入り込んでくるその熱さに、三上は詰めていた息を大きく吐き出して、そして、汗で張り付いた前髪をかきあげた。
『…あ?』
閉じていた目をゆっくりと開ける。思ったよりもすぐ側に藤代の表情があって、それに大きく瞬きを返した。
『なんで。最近、遠い目をしてる』
『べ、つ、に…』
責める様に見つめてくる藤代の視線から逃れるために、三上は汗ばんだ藤代の肩を強引に引き寄せた。そうしてごまかすように腰を揺らして、藤代の熱を誘う。藤代の息遣いの向こうに聞こえるコオロギの鳴き声が、行為に没頭しようとすればするほど、三上の心を苛んだ。
『くはっ…!』
前触れなく襲った左肩の痛みに、三上は思わず咽喉をヒクつかせた。その反応を楽しむような笑い声が耳元でして、じんじんするその痛みに三上はその無邪気な顔を睨みつけた。
『いってえっ…、んぁっ…!』
タイミングを見計らうように最奥を突かれて、三上は堪らず声をあげた。まるで貪りつくように重ねられた藤代の舌が、三上のその唇を割る。同時に錆びた鉄のような味が口内に広がって、溜まった唾液を咽喉の奥に押し流した。

そうしてやがて2人は早まる律動を超えて絶頂に達し、生ぬるい畳の上でこの果てのない絶望に呆然としたのだ。ふたりの間に横たわる濃艶の闇は、ただ絶望の闇だった。握り締めた藤代の手の平は、けれどひどく熱かったという、それだけのことを覚えている。






何時の間にか降り止んだ雨に、三上は自分が長いこと回想の中にいたことを知る。手にもっていた蝉の死骸を畳の上にそっと横たえて、立ち上がった。そうして縁側の下に乱暴に脱ぎ捨てられていた突っ掛けに足を滑り込ませると、雨で湿った不快な感触がして、けれど構わず砂利を踏んだ。

外し忘れた風鈴の音が、風にふかれて庭いっぱいのコオロギの音色に共鳴する。

踏みしめた石に映える陰に違和感を感じて、三上はふと立ち止まると空を見上げた。そうして目に入った、闇を照らす、その黄色い月明かりに目を細める。


―――そういえば、今日は中秋の名月だった。


再び降ろした視線の先。草履の形にできた、足の甲の日焼けが月明かりに照らされるのを見、それに押さえていたはずの感情が唐突に堰き上がってきて、嗚咽を洩らした。

たまらず首筋に這わせた手がザラザラとしたかさぶたに触れて、その場所にぐっと爪を立ててそれを剥ぎ取った。鋭い痛みは、けれど、胸から堰き上がって来た激しい感情に覆い隠される。

「藤代っ…!」
止めどない嗚咽が、溢れ、そして流れる。
この痛み、触れたあの体温、鉄の味、全ては確かにこの身体にやきついている。

確かに、あの泡沫の夢のような夏は、けれど確かに、ここにあったのだ。

……あったのだ。



止めどない嗚咽に、耳について不快だった風鈴とコオロギの音色が、きれいに掻き消される。


満月の明かりが、庭先に立ち尽くす三上の姿を照らしていた。





(了)
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立ちのぼる一筋の煙の向こうで、蚊取り線香の匂いは嫌いだ、と顔をしかめて呟く藤代に笑った。

「おまえは蚊と同類だかんな、仕方なし。死んでしまえ」
「え、どこが!俺は別に血とか吸わないし~」
「よく言うぜ、やたらと噛み付いてくるのはどこのどいつだ」
三上は呆れた顔をすると、自分の首に手を当てて昨晩できたばかりの真新しい傷をソロリとなでた。
扇風機の微風が、少しのびすぎた髪の毛をやわらかくさらっていく。
「それを言うなら先輩は猫っすねー」
「…はあ?」
「だってやたらと爪でひっか…」
「はいはいはい、お喋りしてないで早くスイカ食べてくださいね~、冷めるよ!」
「…最初から冷めてるし。ていうか背中ヒリヒリするんだよね、先輩のせいでさ~あ」
「あらあらそれは大変。蚊取り線香の煙ねりこんでやりましょうか」

カラン―――

不意に、微かな音。
麦茶で満たされたグラスの中で、浮かんだ氷が不安げに揺れた。
2人無造作に腰かけた縁側に、透き通った音が響く。
目の前の竹林が静かにざわめくその音と、玄関脇に植えられた大木から聞こえてくる蝉の鳴き声がそれに共鳴する。

その時塀の向こうで、軋んだブレーキ音をたててバイクがガタン、と止まる気配がした。三上は反射的に傍らの藤代を振り返った。
気だるい空間に、ほんの小さな緊張感がわりこむ。
間髪おかず、玄関の方で物音と大きく家主の名を呼ぶ声が聞こえて、三上は藤代と目を合わせたまま肩をすくませた。
再び反応のない家に向かって張り上げる声が聞こえ、多分千葉の叔母からの荷物が届いたのだろう、と家主であるはずの三上はまるで他人事の様に思った。

そうして再び諦めたようなエンジン音が遠くに消えると、縁側の世界は何ごともなかったように平穏を取り戻した。

「そろそろ昼飯でもくうか」
「ん~」
「俺天丼。お前は」
「カキ氷」
「天丼ね、電話してくるわ」

藤代の返事を待たずに立ち上がって、浴衣の裾を慣らす。
けれど背を向けた庭の向こうで、夏の音色の中にふと小さな違和感を感じて、三上は出しかけた足をとめた。

竹林のざわめき、蝉の声、風鈴、扇風機、その合い間に聞こえる、これは―――、

コオロギの、鳴き声。

三上は首筋の傷にそっと手を触れた。
傷跡に爪をたてれば、鈍い痛みが麻痺しかけた脳を刺激する。
そうして、ゆっくりと、しかし確実に忍び寄るその足音に、忘れていた絶望を思い出す。


夏も、終わりに近づいていた。


泡沫の夢のような、この夏も。



(了)


「先輩、空飛びたいと思いません?」
「思いません」

ちぇ、と口を尖らせてからぐっと上体を反らせ空を仰ぐ藤代を横目で見て、三上も同じように空を見上げた。広がるのは青い、そして少しくすんだスカイブルー。
「あ~、空飛びたい」
傍らで呟かれた、少し悔しさが滲んだその言葉に三上は思わず視線を戻した。けれど藤代は何事もなかったようにただひたすら空を見上げている。初めて飛行機を見た少年のような、真っ直ぐな瞳のそのむこうに広がるのは、自分の目にうつる空と同じ色なのだろうか。ふとそんな疑問が浮かんで、思わず口にしかけて馬鹿馬鹿しいと思いなおした。けれど開きかけた口がなんとなく落ち着かなくて、思ってもいない言葉を代わりに呟く。

「飛べんじゃねえの、いつか」

そして次の瞬間、藤代が少し驚いた顔で振り向くのだ。

なんでもない日常の、なんでもない思い出。いつの出来事だったかなんて、もうとうに忘れてしまった。けれど空を見上げればいつも思い出されるのはあの時の、スカイブルーと藤代の顔で。それが何故なのだろうとか、考えたことはなかった。
けれど今、たった今、それが分かった気が、して。
「…うそだろ…、」
呆然と見下ろした視線の先、蛍光灯の光に反射しててらてらと光る見知った顔が、満面の笑顔で自分を見返している。見知った顔。ただ一点違うのは、この笑顔が、その他大勢の人にむけられた表情だ、というそれだけのこと。
雑誌の記事を目で追えば、藤代が来期からスペインのクラブチームに移籍すること、それから、
「…先輩、ごめん」
抑揚のない、ただ癇に障るだけの声が耳の奥に響いた。それはあまりにもいつもの、そういつもすぎる声音でそれがよけいに焦燥感をつのらせる。背中あわせのソファに、背中あわせに座った相手の表情がわからないのがせめてもの救いだった。この動揺を藤代にみせるのはプライドが許さない、と崩れ落ちそうな理性を辛うじて繋ぎとめる。
「…なに…が」
全身全霊の力を込めて平静を装って発したはずの声は、語尾が掠れた。加えて、小さく笑う藤代の気配。
(―――死ね)
押し込められない感情が、肩をふるわせる。握り締めた拳は、もうとうに限界を超えていた。
わかっては、いた。いつかこういう時がくるのだろうと。


------
続く(?)
 


木の枝から落下した大粒の雫がひとつ、ビニール傘に当って弾けた。それに反応するように触れ合った肩がうれしそうに跳ねて、その拍子に掲げた傘が前後にふれる。三上は降りかかる水しぶきに眉を寄せながら、
「ガキかっつーの」
小さく舌打ちを返した。そして少しだけ上方にある頭を見上げるのが癪で、黒く湿ったアスファルトに目を落とす。
「雨の音っていいじゃないっすか。俺はスキ」
「あっそ」
興味のない声音で呟き返せば、抗議のように肩をぶつけられる。それに傘の外に追い出すような勢いでやり返して、けれど全くびくりともしない身体にある種の殺意を覚えて、地面に落としたままだった視線を藤代にむけた。しかし威圧する予定で睨んだ相手はひるむどころか逆にそれを楽しんでさえいるような笑みをよこして来て。そこでようやく、さっきから懸命に視線をそらそうとしていた努力が水の泡になってしまった事に気付いて、三上は悔し紛れにアスファルトを思いっきり蹴り飛ばした。その勢いで跳ねた水音が、降り続く雨のむこうに響いて吸い込まれるように消えていった。その音に互いに耳を澄ますような間をおいて、一瞬シンとする。地面を打つ雨の音とは一転、気まずくなった傘の下の空気をかき消すように、藤代が大げさに肩をすくめてみせた。三上はそれを横目でみて、渾身の力をこめてもう一度だけ睨みつける。けれど返されたのは、ビニール傘の下でくぐもった笑い声と、
「もう少し傘、高くあげて?」
追い討ちのように諭すような口調で。三上は掲げた手を要求とはてんで逆の方向に動かした。



 

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