まさにジャンク 夢 忍者ブログ
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Scene 1.
 
どっちにしろ、歯磨き粉とシャンプーが切れていて買いに出なきゃならなかったし。
 
私は行き交うカップル、カップル、カップルの荒波に流されそうになりながら、口を真一文字に引き結んでうん、と強引に自分を納得させた。
駅前の広場は、クリスマスツリーを彩るイルミネーションと、どこからか流れてくるクリスマスソングでまばゆいばかりの光と音に満ちている。
私は大きなクリスマスツリーの影に身を隠しながら、街に溶け込んでいく二つの背中をぼんやりと見送って白いため息をついた。二人はどこからどうみても仲のいい恋人同士だった。万に一つも、クリスマスの今日という日に別れるなんてそんな可能性、最初からひとつもなかったのだ。でも仕方ないじゃない。うっかり三上のクリスマスの予定を聞いてしまったのが運のつき、例えば待ち合わせ場所に彼女がこなかったら?なんて事を考えだしてしまっては、いても立ってもいられなかったのだ。実のところ、歯磨き粉は搾り出せばあと3日はもったし、シャンプーだって試供品がたくさんあった。なんにせよ、お洒落をして駅前にやってきて惨めな気持ちになる必要は、ひとつもなかったのだ。
自業自得だ。笑えるじゃないか。それでも私は誰よりも三上が好きな自信があったし、三上に好意を寄せているどの女よりもいい女だという自信ももってはいた。それがただの傲慢だということも、まあ、…うん、わかってはいた。ついでに言うならば、これがストーカー一歩手前の行為だとも、重々自覚している。けれどどんなに僅かな希望にだってみっともなくすがり付いてしまうのは、希望などというものがこれっぽっちもないせいだからなのだということも、認めたくないだけでわかっていた。けれどどうしたって、望みのない恋だとは思いたくなかったのだ。理解していることと希望とが頭の中でぐちゃぐちゃにまざりあって、一丸となって胸を襲ってきて嗚咽がもれそうになる。
肩を落として、待ち合わせの人の群れから力なく後退しようとしたその時、不意に背後からまるでタイミングを計ったような声がかかって、私はそうとは自覚せずに立ち止まった。
その声は、山田、とひどく優し気なトーンで私の名を呼んだ。
「…、渋沢」
振り返ったその場所にイルミネーションの光を浴びた渋沢がたっていて、なんだかひどく幻想的なその光景に私は数度瞬きした。突然のことにたいして驚きもしなかったのは、もしかしたらこうやって渋沢が現れて、私の心を軽くしてくれることをどこかで予想していたのかもしれなかった。けれどそれは期待ではなくて、単なる予想だ。渋沢でなくてもほかの誰でもよくて、気持ちを紛らわせてくれる誰かが私の肩をたたくという、ただそれだけの予想。
「偶然だな。何やってるんだ?」
無邪気に見返してくる視線は、けれど口元に浮かんだわずかな微笑でうさんくささを装飾していた。
「…買い物」
私はぶっきらぼうに言い捨てて、一番最近渋沢に会ったのはいつだっけな、と頭の端っこで考える。―――あ、大学の食堂だ。
「へえ」
ひどく感心したような感嘆の声に、私はうんざりした顔で、わざと下手な演技をしているに違いない目の前の人間を見上げてため息をついた。
「…、憎たらしい」
私の悪態に人の悪い笑みで見返す渋沢を睨み付けて、私は早々に白旗をあげた。どうせわかってるんでしょう、私が何やってるか。ふてくされたように呟くと、渋沢はおかしそうに笑った。
「残念だったな、万が一、ということがなくて」
「うるさい。貴方こそ何やってんのよ」
上からふってくる、笑いを堪えるような吐息が癪に障る。
「俺か?待ち合わせ…、振られた誰かさんと」
「死ねば」
「ははっ、…三上なんかより俺の方が数倍いい男だと思うんだけどなあ」
「知ってる」
「…」
「…何自分で言っといて絶句してんの」
思わず苦笑した私に、渋沢が呆れたように肩をすくめた。
「いや、今、お前は本当の馬鹿なんだなと思ってだな…」
「真顔で言わないで」
「なんであんな、頼りないやつが好きなんだ」
「そこがいいんじゃない。手を差し伸べたくなる」
「手を差し伸べたく、ね…」
「あ、…ごめん。今の失言」
「…まあ俺はたしかに手を差し伸べたくならないだろうな」
「何いじけてるの、それが悪いとは言ってないじゃない」
「いや、俺はそういうところが好きだよ」
「…は?」
「なんでもない。いくぞ」
「はあ?どこへ?」
「レストラン。予約してあるんだ」
「ちょ、ちょ、まってって!」
「せっかくお洒落してきたんだ、そのまま帰るのはもったいないだろう?」
「そ、れは…、そ…ちがうちがう!そういうことじゃなくて!」
「ならどういうことだ?…すまん、傷心の女心につけこんで手篭めにしてしまおう、なんて思ってないから」
「え、ちょっと、あやまってんのか本心なのかわからないんですけど!」
「嫌ならこの手を振り切って逃げればいい。…傷つかないから」
まるでとってつけたように呟かれた最後の一言が、心の隅っこに引っかかったほんの少しの意地を振り落としてしまった。前触れなくとられた手が、渋沢の大きな手のひらの中に握り締められる。かじかんだ手が、肌を伝わる彼の体温を余計に助長させて、ドクドクと血脈を躍らせた。申し訳程度にそれに抵抗して、けれどすぐに、私は諦めのため息をついた。
「…、ずるい」
「どうも」
「褒めてないですこの野郎」
「はいはい、行くぞ、遅れる」
「教えてあげる。そういう強引なところが嫌い」
「そのうち良くなるさ」
 
 
 Merry Christmas! : Scene 1.
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